第一回「国際農業と文化」シンポジウム(ACT6) 開催レポート
「吸収源CDMの有用性 – 事業者と地域住民の視点から」開催
平成18年7月16日(日)、第一回「国際農業と文化」シンポジウム(ACT6) 「吸収源CDMの有用性-事業者と地域住民の視点から」が農学部・弥生講堂にて開催されました。 本シンポジウムでは、現行ルールにおける吸収源CDMの限界を踏まえた上で、特に「事業者」の視点に焦点を当て、「事業者が吸収源CDMの枠組みのもとで(地球温暖化防止に限定せず)果たして何を実現したいのか?」「事業者はどういった意図を持って吸収源CDMの枠組みのもとで地域の『開発』に当たっているのか?」について発表者の方々からご意見・ご報告を頂き、それをもとに将来の吸収源CDMのルールのあるべき姿を議論することを目的として開催されました。 当日は当初の見込みをはるかに上回る175名もの方々にお集まり頂きました。ご参加頂いた皆様、どうもありがとうございました。
本シンポジウムは国際農業と文化フォーラムグループ・「森と文化」研究サブグループを担当する農学国際専攻・国際森林環境学研究室(井上真教授、露木聡助教授)の博士課程学生3名(河合真之、棚橋雄平、福嶋崇)が中心となり企画・運営しました。
当日の進行状況 まず、「開会の挨拶」として會田勝美機構長/農学生命科学研究科長より挨拶があり、アグリコクーン設立の経緯と趣旨の説明がされました。
続いて、東京大学大学院農学生命科学研究科の福嶋崇より、「吸収源CDMの現行ルールにおける限界」と題して、吸収源CDMのルールの説明及び問題提起を行いました。
発表内容
<問題提起>「吸収源CDMにおける現行ルールの限界」
1.吸収源CDMのルール
温室効果ガス(GHG)の排出削減を目的として’97年に京都議定書採択と同時に認められた京都メカニズムは、排出権取引、共同実施、クリーン開発メカニズム(CDM)の3部門からなる。このうちCDMは、先進国が途上国でGHG排出削減などの事業を実施し、その結果生じた削減量に応じ発行されるクレジットを参加者間で分け合う制度であり、また、温暖化防止に途上国が参加できる唯一の枠組みである。
COP7(‘01.11)で採択されたマラケシュ合意では、森林の吸収に関わるCDMの対象を「新規植林」、「再植林」に限定することが決定された。吸収源CDMは森林を対象とするがゆえの非永続性(森林がいずれは消滅してCO2を排出すること)や不確実性(CO2の吸収量を正確に予測できないこと)、長期性(森林の成長には長期間を要すること)という特徴を有する。このためCOP9、COP10で決定された各ルール・方法論はこうした問題に配慮した形となった。具体的には、吸収源CDMに固有な期限付クレジット(tCER,lCER)、通常より長いクレジット発生期間(20年で2回更新或いは30年で更新無し)、通常より低い小規模CDMの上限(年平均8kt-CO2)などである。また、小規模吸収源CDMに対しては、その要件として「ホスト国の規定する低所得者共同体及び個人により開発される又は実施されること」という条件がつけられている。
2.関係アクターにとっての利点・問題点
事業者側の視点から事業実施における吸収源CDMの利点と問題点を把握するため、文献調査とともに専門家、林野庁・環境省関係者、企業関係者、NGO関係者に対する聞き取り調査を行った。調査を通じ、以下の結果が得られた。
<利点>
(A) 温暖化防止に途上国、さらに地域が参加できる唯一の枠組みであり、「環境保全」「地域振興」の両立を目指す。
(B) 吸収源CDMは環境、社会、経済の三者への配慮を要求している点で、これらの要件が企業やNGOによるそれぞれの植林事業を改善する有用な指標となる。
(C) 木材生産機能だけでなく、炭素固定機能に対し貨幣価値を見出すものであり、林業の新たな形を示すものになり得る。
<問題点>
(ア) ルールが煩雑:追加性の証明、方法論・PDDの作成・承認、補填義務など
(イ) 採算性が低い:クレジット価格が低い、更新に更なるコストが必要
(ウ) クレジットが売れない:不確実性の高い吸収源CDMのクレジットの需要が低い
(エ) 日本政府の支援体制が不十分:補助金の不足、クレジット買取制度の構築の遅延
(オ) 国際的な議論の遅延:排出源CDMと比してルール決定が二年遅れ
3.まとめ
吸収源CDMには地域及び低所得者層への貢献や森林造成・回復に伴う生物多様性の維持・向上など様々な利点を有することが期待されている。しかし、ルールの煩雑さ、採算性の低さといった問題を抱えるため、GHG吸収のみを評価する現行ルールでは事業が進まない懸念がある。吸収源CDM事業推進に向けてのアプローチは様々なものが考えられるが、本シンポジウムにおいては特に「事業者」の立場からその取り組みの多岐にわたる可能性を検討する。
(福嶋 崇:captainhook@fr.a.u-tokyo.ac.jp)
発表内容
<問題提起>「吸収源CDMにおける現行ルールの限界」
1.吸収源CDMのルール
温室効果ガス(GHG)の排出削減を目的として’97年に京都議定書採択と同時に認められた京都メカニズムは、排出権取引、共同実施、クリーン開発メカニズム(CDM)の3部門からなる。このうちCDMは、先進国が途上国でGHG排出削減などの事業を実施し、その結果生じた削減量に応じ発行されるクレジットを参加者間で分け合う制度であり、また、温暖化防止に途上国が参加できる唯一の枠組みである。
COP7(‘01.11)で採択されたマラケシュ合意では、森林の吸収に関わるCDMの対象を「新規植林」、「再植林」に限定することが決定された。吸収源CDMは森林を対象とするがゆえの非永続性(森林がいずれは消滅してCO2を排出すること)や不確実性(CO2の吸収量を正確に予測できないこと)、長期性(森林の成長には長期間を要すること)という特徴を有する。このためCOP9、COP10で決定された各ルール・方法論はこうした問題に配慮した形となった。具体的には、吸収源CDMに固有な期限付クレジット(tCER,lCER)、通常より長いクレジット発生期間(20年で2回更新或いは30年で更新無し)、通常より低い小規模CDMの上限(年平均8kt-CO2)などである。また、小規模吸収源CDMに対しては、その要件として「ホスト国の規定する低所得者共同体及び個人により開発される又は実施されること」という条件がつけられている。
2.関係アクターにとっての利点・問題点
事業者側の視点から事業実施における吸収源CDMの利点と問題点を把握するため、文献調査とともに専門家、林野庁・環境省関係者、企業関係者、NGO関係者に対する聞き取り調査を行った。調査を通じ、以下の結果が得られた。
<利点>
(A) 温暖化防止に途上国、さらに地域が参加できる唯一の枠組みであり、「環境保全」「地域振興」の両立を目指す。
(B) 吸収源CDMは環境、社会、経済の三者への配慮を要求している点で、これらの要件が企業やNGOによるそれぞれの植林事業を改善する有用な指標となる。
(C) 木材生産機能だけでなく、炭素固定機能に対し貨幣価値を見出すものであり、林業の新たな形を示すものになり得る。
<問題点>
(ア) ルールが煩雑:追加性の証明、方法論・PDDの作成・承認、補填義務など
(イ) 採算性が低い:クレジット価格が低い、更新に更なるコストが必要
(ウ) クレジットが売れない:不確実性の高い吸収源CDMのクレジットの需要が低い
(エ) 日本政府の支援体制が不十分:補助金の不足、クレジット買取制度の構築の遅延
(オ) 国際的な議論の遅延:排出源CDMと比してルール決定が二年遅れ
3.まとめ
吸収源CDMには地域及び低所得者層への貢献や森林造成・回復に伴う生物多様性の維持・向上など様々な利点を有することが期待されている。しかし、ルールの煩雑さ、採算性の低さといった問題を抱えるため、GHG吸収のみを評価する現行ルールでは事業が進まない懸念がある。吸収源CDM事業推進に向けてのアプローチは様々なものが考えられるが、本シンポジウムにおいては特に「事業者」の立場からその取り組みの多岐にわたる可能性を検討する。
(福嶋 崇:captainhook@fr.a.u-tokyo.ac.jp)