農学友人の和

「バスで行く 北信州アグロツーリズム ~地域の活性化、農村の暮らしについて考える~」

報告書

AGRI-COCOON 「2007 農学友人の和」
「バスで行く 北信州アグロツーリズム
~地域の活性化、農村の暮らしについて考える~」
報告書
アグリコクーン TA
生物・環境工学専攻 M1 佐々木 健介

11月28日

8:30 東大農学部出発
 全員がほぼ時間通り集合し出発する。外国の方も3分の1弱参加しているため国際色豊かなツアーとなった。車中ではTAの荒川さんが英語を交えつつ司会を行い当日の流れを確認してゆく。その後、各人が自己紹介を行う。外国人からは日本のカントリーサイドの文化を一挙に味わうことができるという参加理由が多く聞かれた。しばしの歓談の後、引率の五十嵐先生よりバイオエタノールについて講義がある。エタノール発酵に関し化学的見地より説明があった後、日本酒の製造法についてレクチャーを行う。印象に残ったのは吟醸とか大吟醸といった酒の造り方である。上手い酒を造るため、米の中心部だけを使うそうだ。残りかすはせんべい等になるとはいえ、何と贅沢な製法なのだと感じ入る。途中、2箇所パーキングエリアで休息を取り、無事信州へ。

13:00 昼食「たかさわ」

きのこ栽培所を見学
 近辺で有名な蕎麦屋さんで昼食をいただく。痩せた土地で採れるのが蕎麦だとは良く聞くが、豊かな土地でこの蕎麦ができないのであれば寧ろ痩せた土地に住みたいものだと思った。又、寒中飲む蕎麦湯がこれほど美味しいものだというのも新たな発見であった。
 食後は早速学生の本分である学習に入る。たかさわが持つキノコ栽培施設を見学させていただく。キノコを何度も移動させる点、キノコが生える土台となる部分を一回使用しただけで捨ててしまうという点が印象的だった。一パックのキノコを作るために必要な労力と物品が実感されたからだ。倒木になるキノコしかイメージできなかった私にとって貴重な経験だった。

14:00 バイオエタノールプラント見学

バイオエタノールプラントを見学
 バスで少し移動しバイオエタノールプラントに着く。プラントといいつつも玄米や稲藁が置かれた建物は非常に有機的な印象を与える。プラントで働く方々からお話を聞き、五十嵐先生がそれを英語に訳してくれた。米からは重量の半分、稲藁からは重量の10分の1のバイオエタノールが出来るという。一通り装置の説明が終わった後、実際に米から作ったバイオエタノールを飲ませてもらう。アルコール度数96%のバイオエタノールは香り良く、個人的には水割りにしたら美味しいのではないかと思った。

15:00 銘酒松尾 醸造元(高橋助作酒造店)見学

お酒の醸造元を見学 このあと試飲もさせていただきました
 車中での講義の流れに沿うようにして、本日のフィールドワークの締めは日本酒の製造所であった。日本酒が出来る工程を見るとともに試飲をさせていただいた。製造所の従業員の方々、高橋さんの解説を今度は五十嵐先生に加え、荒川さんも混ざり通訳してゆく。素晴らしい通訳のお陰で外国人の方からも数々の質問が出る。
 製造工程に関して抱いた印象は、本当に素朴な製法だということだ。例えば、発酵を促進するために原料を温める工程では木製の桶に湯を入れて、それを原料につけて温めるのだ。その他、原料を混ぜるのも人の手で行っていた。一言で表せば非常にアットホームであり、日本に息づく”文化”の一端を感じられるのが醸造所であると思った。
 試飲に際しては、各人好みが分かれたのが印象的であった。酒好きを自称する参加者の一人は一番安いものが口に合うと言い、私は醸造用アルコールが混ざっていない純米~という種類が好きであるという具合だ。純米で無いものは刺すようなアルコールの刺激があり、私はそれが好きでなかった。しかし、好みが何であるにせよ、重要なのは我々が大いに学び、大いに楽しんだということであろう。参加者の中には醸造所での宴会を主張していた方もいた。
 去り難きフィールドワーク先ではあったが、皆惜しみつつ、松尾というこの醸造所の酒を買い込みバスに乗り、本日の宿泊先へと向かう。

17:30 ロッジしらかば着

ロッジの心づくしのおもてなしに大満足
 少し山をあがり、少し予定からは遅れたが、宿泊先へと着く。玄関にはあと5センチでギネスに載るという金魚がいる。同じ種でも、寒い地に生息する群は暖かい地に生息する群に比べ、サイズが大きくなるというベルクマンの法則を思い出す。

18:00 夕食
 部屋で荷物を降ろし夕食へ。ロッジを経営する高力さんとその家族に感謝しつつ信州の幸を戴く。戴きますを言う際、視点が少しだけ広がったことに気づいた。蕎麦の上に乗るキノコを見て、昼間のキノコ栽培施設を思い出したのだ。一つ一つの食材が作られるまでの労力が少しだけ体感できるようになり、いただきますに実感が少しこもった。食後は皆で片づけを行う。

19:00 講演 高力一浩氏ほか

夕食の後はロッジのラウンジで講演会
 食後少し休息する。この時間で同部屋の韓国、パキスタンの参加者の方、TAの今井くんと少し話すことが出来、パキスタンの言語のことなど話す。
 その後、食堂に戻り高力さんの「癒しの森」に関する講演を聴く。荒川さんの通訳はいよいよ冴え、高力さんも素晴らしいと驚いていた。癒しの森は民から始まり官を巻き込み、着実に町おこしを成功させ、テレビでも取り上げられた全国的にも有名なプロジェクトである。都会の喧騒を離れ、医師の診療から始まり、丹田式深呼吸、自然観察療法、夜の森ツアー、宿でのもてなし、その他工夫に富んだプログラムを通じ”癒し”を体験してもらうのが”癒しの森”の全体像である。特に素晴らしいと思ったのは、焦らず着実にプロジェクトを進めていることであった。時間をかけ、産官民を巻き込んだ後、これから徐々に学をも巻き込んでゆくという。高力さんの後に話してくれた信濃町役場の浅原さんは高力さん=ハイパワーと表現したが、正にその通りだと思った。

20:00~ 懇親会
 懇親会には高橋助作酒造店の方、翌日のフィールドワーク先でお世話になる方など地元の方にもご参加いただいた。時間が経つのを忘れて語りあい、ふと気づけば深夜1時30分であった。

11月29日

8:30 ロッジ出発
 昨日遅くまで語りあったにも関わらず、皆元気にロッジを出発する。

9:00 農村集落排水処理場

黒姫山のふもとの農業集落排水施設に向かうところ
 2000人近い村民の排水を処理する施設を見学する。私が受けた印象は非常にコンパクトな施設であるということ。又、これでツアー参加者は食べ物が作られるところから料理され、食卓に並び、消化され、出て行った先までを見たことになり、物質が循環してゆく様を学ぶことができた。

10:00 黒姫和漢薬研究所見学
 製茶工場を見学する。「大自然健康づくり運動」と工場内の壁に大書されているように健康増進をテーマとしたお茶を生産しているとのこと。参加者の一人は自宅で”えんめい茶”というこの会社で作られたお茶を飲んでいるとのこと。帰りに試供品を戴いたため、私もこの紀行文を書きながら飲んでいるが、”和漢”という語から想像していた癖も無く、非常に飲みやすいお茶である。西洋医学の即効性のある薬と違い、長く飲んでもらうことが大事、そのために美味しいことが大事だと従業員の方がおっしゃっていたが納得した。

11:30 そばうち体験

そばうち体験 うまくできるかな?
 当初予定していた”やすらぎの森”は水道管が破裂するというトラブルがあったため、別の場所で蕎麦うち体験を行う。指導してくれた地元の方の手際のよさ、職人技に感心しつつほとんどが素人の私達も小班に分かれ粉を混ぜることから始める。苦闘の後、出来た蕎麦は糸の様な細いものからきし麺のような太いものまでが均等に混ざった怪しいものであったが、美味しく戴くことができた。

13:30 出発
 道の駅しなのに立ち寄り
道の駅しなのでは現地の特産品を土産に買う。私はみそおこげと研究室に土産を買った。

18:30 東大農学部着
 さまざまな見学を経てはいたが、車中では農学部到着まで宴会が行われる。一泊二日ではあったが、一週間ほど経たような気がするほど密度の濃い旅行であった。企画に関わった全ての人に感謝しつつこの紀行文の結びとしたい。