院生TAトリオ!強烈メッセージ ~アグリコクーン発足式~
ACT1 アグリコクーン発足式・第一回農学コロキアムワークショップ開催レポート

平成18年1月27日(金)、アグリコクーン発足式を兼ねた、「21世紀農学コロキアム第1回ワークショップ」 が農学部3号館4階大会議室で催されました。当初の見込みを大幅に上回る、80名もの方々にご参加いただきました。ご参加いただいたみなさま、どうもありがとうございました。
当日の司会進行は妹尾先生。 まず、ご挨拶を兼ねて、會田勝美先生(機構長/農学生命科学研究科長)が、「アグリコクーンとこれからの農学生命科学研究科」と題して、アグリコクーン設立の経緯と、農学生命科学研究科の歴史を振り返り、今後に期することをお話ししました。 発表内容→
要旨
アグリコクーンとこれからの農学生命科学研究科
會田勝美/発表資料(PDF)/2006年1月27日
機構のなりたち
今年度、「魅力ある大学院教育イニシアティブ」が文科省から募集され、応募したところ採択された。当初は「産」と「学」の連携だけだったが、それに「官」と「民」を加えた。かくして「産学官民連携型農学生命科学研究インキュベータ機構」という機構を発足し、その英語名の略称を「アグリコクーン」と名づけた。機構長:會田、副機構長:妹尾、事務局長:中嶋を中心に、機構運営委員会をつくることになった。
従来の専攻は、その専攻の枠の中だけで研究してきたが、専攻横断型の研究グループをつくったらどうかと提案したところ、今では24の研究グループが専攻の枠を越えた研究活動を行っている。講師を招待したり、セミナーをしたり、かなり活発に活動している研究グループもある。ここ2年くらいこのようなかたちで進めてきたが、この研究グループを中核に、修士・博士の学生、そしてビジネス/アラムニアドバイザリーグループ(産学官民)にも参加していただき、「フォーラム」を立ち上げて、その運営に学生にも携わっていただく、という構造を考えたらよいのではないか、というのがこの機構のコンセプトである。
現在四つのフォーラムグループがあるが、その集合体を「21世紀農学コロキアム」と呼ぶ。そしてこれをマネジメントするコミッティをつくろうということで、そこには農学部運営諮問会議委員にも参加していただくようお願いしている。
フォーラムのコンセプト
今年度は、「食の安全・安心フォーラム」が先行して活動を始めている。また平成18年度には、すでに「農学におけるバイオマス利用フォーラム」「国際農業と文化フォーラム」「生物多様性・生態系再生フォーラム」の参加が決まっており、現在ほかのフォーラムを募集している。
フォーラムのコンセプトは以下のとおり。
  • フォーラムをつくらずに、現在の24の研究グループのまま活動してもよい
  • 必要であれば研究科共通科目を設置し、単位を認めてもよい
  • 学生・PDのフォーラム運営への参加が薦められる→就職活動の足がかりになり得る
  • 予算は設備拡充にあてられる
  • 産学官民連携室を設置
これからの農学生命科学研究科
これからの農学生命科学研究科を考えるにあたって、まず過去・現在のありようを考えることが大切だろう。1874年に農学部前身の農事修学場が新宿御苑内に創設され、以来次々と学科ができ、1956年に8学科体制ができた。これまでを「学部発展期」と呼ぶ。それから40年近く低迷期に入るが、1953年に大学院が設置され、学部の低迷と時を同じくして発展してゆく。1994年の大学院重点化に伴い、5課程21専修とする。以来ほぼ10年、学部進学者は定員オーバーの状態を保っている。院生の定員も増えた。そして2004年の法人化を迎える。
今年度総長になられた小宮山先生のアクションプランのコンセプトが、「世界一の総合大学をめざす」というものだった。われわれ農学生命科学研究科も、このコンセプトに基づいて評価される。私大では建学の理念がしっかりしているが、われわれも(農学生命科学研究科としての)明確なコンセプト、旗印が必要だろう。
2006年には全科類枠が導入される。これにあたって、農学部がいかに魅力的な存在であるかをアピールしていくことが重要になってくる。2006年度には5課程21専修を3課程15専修に変えることにしているが、その成否は定かではない。若い先生方に期待するところである。また2005年のアグリコクーン発足により、専攻の枠を越え、産学官民の連携というシステムを導入することによって、社会から新たなエネルギーをもらい、大学院教育のさらなる充実をめざす。アグリコクーンの発展が、研究科・学部の将来にかかわってくる。アグリコクーンの大いなる発展を期待する。

「第1部:アグリコクーンにおける教育・研究:フォーラムグループの計画」では、5人の先生方にお話しいただきました。
まず中嶋康博先生(機構事務局長/農業・資源経済学専攻)に、アグリコクーンの機能やめざす教育、産学官民の連携のありかた、組織概念などについての概説の後、フォーラムグループ(FG)の機能、そしてすでに開講が決定している「食の安全ゼミナール」について解説していただき、そのうえで新たなFGのお誘いと、産学官民連携室の紹介をしていただきました。 発表内容→
要旨
アグリコクーンの枠組みと食の安全・安心フォーラムの取り組み
中嶋 康博 (機構事務局長/農業・資源経済学専攻)/発表資料(PDF)/2006年1月27日
ワクワクする研究
アグリコクーンという愛称は、「繭の中でいろいろな研究や教育をはぐくんでいこう」という意味をこめた。 外向きのキャッチフレーズとして、「ワクワクする研究を したい 知りたい お願いしたい」を掲げたが、それには以下の気持ちがこめられている。
したい: 大学院生の気持ち(最先端の研究、社会に役立つ研究など、さまざまな研究をしてみたい)
知りたい: 学部生や一般の人の気持ち
お願いしたい: 産・官・民の気持ち
この「ワクワクする研究」をアグリコクーンがサポートし、新たな「農学の知」をつくることをめざす。 アグリコクーンの機能は四つある。すなわち、「教育」「研究」「連携交流」「情報発信」である。そのうち教育(大学院教育)の部分が核になる。修士1年から博士3年までのうち、とくにアグリコクーンがサポートするのは、 修士1年での「(専門横断的かつ高レベルな)基礎知識の習得」 修士1年~博士1年にかけての「ネットワーク形成」 である。院生には、このアグリコクーンで培うだろう「知識」と「ネットワーク」を生かして、ワクワクする研究につなげていってほしい。
産学官民連携
産学官民連携について言えば、農学生命科学研究科はその連携の中心に常にありたい。また「学」の中でも、お互いの研究室の間の壁を取り払い、アグリコクーンあるいはフォーラムグループを中心としてネットワーク化していき、また各研究室が個別にかかわりをもっている企業にもこのネットワークの輪に入ってもらい、シナジー効果を期待する。農学生命科学研究科はさまざまな研究資産をもっているが、それをいかに結びつけるかが課題である。 アグリコクーンを理解するにあたって、いくつかのキーワードがある。
  • マネジメントコミッティ:機構運営委員会、農学部運営諮問会議、学生オブザーバーの三者から成る。
  • 農学21世紀コロキアム(ACT):フォーラムグループ(FG)の集合体。現在四つのFGができている。FGの機能は四つあるが、そのうち一つでも実行可能であればFGを立ち上げてよい。
  • ACTX:ACTワークショップシリーズ。ACT 1,2,3…というふうに続く。ACT1は本ワークショップである。本年度は「食の安全・安心FG」がACT2とACT3を執り行う。
  • BAG:ビジネスアラムニアドバイザリーグループ。同窓生、関係産業界の協力支援をお願いする組織。
アグリコクーンが提供する教育プログラムについて、「食の安全ゼミナール」に準じて解説すると、以下のとおり(資料p.15, p.16参照)。
アグリコクーン参加のメリットとして、産学官民連携室の事務的サポートや、財政的サポートを得られることが挙げられる。問い合わせは、3号館1階、学生サービスセンター隣の産学官民連携室まで。
続いて、局博一先生(獣医学専攻)に、「食の安全研究センター設立構想とアグリコクーン」という題で、食の安全を研究する専門センターの設立の必要性を、家畜・家畜生産の人へのリスク要因の具体例を挙げながら説いていただき、農学部キャンパスに「食の安全研究センター」を設ける意義を語っていただきました。 発表内容→
要旨
「食の安全研究センター」設立構想とアグリコクーン 局 博一 (食の安全・安心FG/獣医学専攻)/発表資料(PDF)/2006年1月27日
全般的なリスク管理
最近、「食の安全・安心」が大きな社会問題になっている。具体的には動物由来感染症、食中毒、食品アレルギーなどが挙げられるが、とくに動物由来感染症は、一旦起きるとその影響は甚大である。リスクの科学的評価、そしてリスクの情報提示と情報管理が求められている。家畜・家畜生産物の人へのリスク要因には、生物的要因(病原微生物など)、化学的要因(動物用医薬品、農薬、添加物など)、物理的要因(異物、放射能など)がある。また一次的リスクと二次的リスクがあることは周知のとおりで、全般的なリスク管理が必要である。
最近、食の安全に関する法律が次々と制定されていて、なかでも食品安全基本法の制定は特筆できる。これは、「化学的知見に基づいて食品による健康への悪影響を未然に防止しなければならない」としていて、試験研究体制の整備も謳われている。
食の生産から消費までの全段階をカバーできる
このような情況を鑑みて、東大として「食の安全研究センター」を立ち上げるのはもはや社会的義務ではないかと考える。食の生産から消費までの全段階をカバーできる多数の専門家・分野を擁している当研究科に、このようなセンターを設置することのメリットは大きい。またこのセンターを通じて、さらに専攻横断的で実践的な教育を行うこともできるだろう。WHOなど世界機関とかかわりのある研究者・先生方も多数おられるので、このセンターは「アジアの拠点」になり得る。
概念図は資料(p.9)を参照のこと。研究助成を、政府・民間に訴えていくが、その核として、アグリコクーンを通じて情報の受発信を行う。
食の安全研究センターの研究・教育面での柱は以下のとおり。
  • 生産現場から製品までの安全性評価
  • 人獣共通感染症の疫学研究
  • リスク管理、評価、コミュニケーション
まずは農学部3号館の2階に本部を設置したい。実際のリサーチフィールドは付属農場を考えている。そこで試験研究をすることも可能ではないだろうか。今回の「食の安全ゼミナール」の実習の場としても利用できる。また社会人を対象とした研修を行ってもよいのではないか。 なお現在の獣医学、応用動物科学専攻の研究課題の例は資料(p.12)を参照のこと。
五十嵐泰夫先生(応用生命工学専攻)には、「農学におけるバイオマス利用研究フォーラムグループ」について、バイオマスの定義や理念をわかりやすく解説していただきながら、その設立の目的、そして産学官民のかかわりかた、社会的課題、カリキュラムなどについてお話しいただきました。 発表内容→
要旨
農学におけるバイオマス利用研究フォーラムグループ
五十嵐 泰夫 (農学におけるバイオマス利用研究FG/応用生命工学専攻)/発表資料(PDF)/2006年1月27日
「技術」と「社会」からバイオを学ぶ
このグループはまだ本格的に動いておらず、少人数でディスカッションをしている状態である。また本日は鮫島先生のおつくりになったパワーポイントに基づいてお話させていただく。
バイオマスは、「生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義できるが、ここでは深く立ち入らない。これまでの、化石資源使い捨て=非持続的社会から、バイオマスを利用して持続的社会をつくっていこうというのが理念である。
バイオマスのキーワードとして、「持続性」「循環性」が挙げられる。これらキーワードを考えると、バイオマスは、農学がめざしている、あるいは得意としている分野ではないかと考える。また産学官民のかかわりで言えば、「学」は理念の追求としてのバイオマスへの取り組み、「官」は安全保障の面からのかかわり、「産」は技術開発の側面から、そして「民」は地域活性のきっかけとしてのバイオマスへの期待という面でかかわってくることが考えられる。トータルに見て、世界中の人のこれからの生き方を示唆する「人類共通の理解」として、バイオマスを考えてみたい。
バイオマスの利用研究には、二つの側面からの連携が考えられる。一つが技術的側面からの連携、もう一つが社会的側面からの連携である。そこで、「技術」と「社会」それぞれの側面からバイオマスを学ぶ、二つのコアとなる講義を考えた。あわせて、バイオマス利用に重きを置いた演習項目も考えている。バイオマスにかかわる基本的財産(人・講義・施設)はすでに農学生命科学研究科にそろっている。あとはバイオマスに特化した技術と、コアとなる知識や考え方を得ることが重要だろうと考える。
黒倉壽先生(農学国際専攻)には、「国際農業と文化フォーラムグループ」の設立に至った経緯を、個人的なご経験を踏まえて語っていただきました。農学国際という新しい専攻のかかえる課題の学際性・国際性が十二分に伝わってくる内容でした。 発表内容→
要旨
国際農業と文化
黒倉 壽 (国際農業と文化FG/農学国際専攻)/発表資料(PDF)/2006年1月27日
国際開発を担当する超専攻的な分野
農学国際専攻とは「農学をベースとした国際開発を担当する超専攻的な分野」と要約できる。
かつて私が調査したチラタ湖という湖がある。ここの養殖魚が大量に死ぬ。水産学から見ると、過密養殖であるから魚を減らせばよいということで簡単に問題は解決する。しかし開発学として見ると極めて難問である。というのも、養殖魚で生計をたてている「土地なし農民」が生まれる社会背景までをも考えなければならないからである。
メコン川では、かなりの農民が魚を獲っている。しかもその多くが販売目的である。消費量を満たすだけの米を自家栽培できない、つまり農業生産が低いからである。そこで農閑期に魚を獲っている。このように、漁業の問題を漁業だけで解決できない、漁業の問題に取り組むのに農業の問題を考えなければならない、というのが農学国際という学問が抱える一つの特徴だろう。
しかし、農民による漁業に何の問題があるのか。私が浜名湖の祭りに参加して感じたことは、漁村社会・共同体の中に、文化としていろいろなものが含まれているということである。専業漁民の中には資源保護という観念も強く、それが慣例としてできあがっている。つまり文化をもった地域は、あまり破壊的にならない。
もう一つ、文化と技術の相補性を考えて見たい。文化によって技術が残り、また技術によって文化が育まれる。そこで開発の可能性として、「技術によって文化を創成できないか」と考えた。
民間とのジョイント・ベンチャーの必要性
この観点から取り組んでいるプロジェクトが、バタン湾のプロジェクトである。じつは、バタン湾と浜名湖がよく似ている。浜名湖は日本で最初にクルマエビの種苗放流に成功した実績があり、これにより浜名湖の漁民の資源保護意識が大きく変わったという事例がある。そこで、バタン湾でウシエビを種苗放流することによって、地域文化の創成を試みよう、というのが、自分が考える「農業と文化」である。すでにベースライン調査は始まっている。ただ実際にプロジェクトを動かすにあたっては民間とのジョイント・ベンチャーの必要性がある。
さて実際のフォーラムの中には、六つのグループを考えている。「土と文化」「森と文化」「水と文化」「生き物と文化」「農業技術と文化」「プロジェクト実践研修」である。
来たる2月28日には「東南アジアの発展と保全」と題する第3回ラオス養殖研究会・第1回水と文化ゼミナールが弥生講堂で催される。ふるって参加されたい。
日野明徳先生(生圏システム学専攻)には、「21世紀COEプログラム 生物多様性・生態系再生研究拠点」設立の経緯と趣旨、そしてその発展系としての「生物多様性・生態系再生フォーラムグループ」の設立趣意を熱く語っていただきました。 発表内容→
要旨
生物多様性・生態系再生フォーラムグループ
日野 明徳 (生物多様性・生態系再生FG/生圏システム学専攻)/< a href="../../pdf/act01_hino.pdf">発表資料(PDF)/2006年1月27日
現場重視・協働
このFGは、「生圏システム」というそもそも超専攻型の専攻の先生を中心に、新領域の先生、総合研究博物館、国立環境研、日本ウミガメ協議会など、さまざまな分野の先生が集まって成り立っている。
もともとこのFGは、2003年に21世紀COEプログラムの一環で立ち上げられた「生物多様性・生態系再生拠点」に端を発する。20世紀に行われた、短期的な便益を最大化する自然管理により、生態系の機能不全→生物多様性の低下を招いた。生物多様性は、生物の適応のポテンシャルを示すものである。その多様性を保全する(人間が利用しつつ保っていく)ための新しい科学の創造が、「生物多様性・生態系再生拠点」の発足の由来である。その際に重点を置いたのが、資料(p.4)にあるとおり。とくに現場重視・協働の面では、教育プログラムとしても機能している。これまで合計200名におよぶPD、TAの公募採用、さまざまな主体との協働プロジェクトやセミナーの開催、学生を対象とした教育活動といった実績がある。

アグリコクーンの中で、指導者・新しい挑戦者を育成
私たちが今回アグリコクーンに参加しようと思ったのは、これまでのCOEプログラムの成果を風化させたくない、ようやく形となってきた人材育成をここでやめるわけにいかない、という思いがあるからである。COEプログラムが21世紀農学コロキアムでどう展開してゆくか、ということだが、この21世紀に人類が直面する問題として、「環境」「食糧」「水資源」が挙げられる。水資源は別にして、環境と食糧に関しては、我々COEプログラムが取り組んできた、また成果を挙げてきた分野である。そこで、アグリコクーンの中で、指導者・新しい挑戦者を育成する、そして農にかかわる生産者・消費者・研究者・行政を含めた全体のコンセンサスを構築していく、あるいは協働していく、という方向に展開していきたい。
具体的な講義・演習・実習科目の内容は資料(p.7~p.10)にあるとおり。
続いて、「第2部:新しい大学院教育への期待:大学院生からの提言」では、ティーチングアシスタントを務める3名の大学院生にお話をいただきました。
まず、有本 寛さん(農業・資源経済学専攻)には、ご自身の経験から見た農学生命科学研究科の強み(図書館やオンラインジャーナルなど)と弱み(ヨコの連携の少なさ、留学生の受入体制の不備など)を述べていただいたうえで、アグリコクーンに期待すること(情報公開、専門知の翻訳など)、そしてその提案を現実化していくうえでの具体的な方策を提案していただきました。 発表者内容→
要旨
新しい大学院教育に対する去り際の提言
―― 5年間ありがとう――
有本 寛 (農業・資源経済学専攻・D3)/発表資料(PDF)/2006年1月27日
強み・弱み・期待
本日は在学5年間の感謝も込めて、新しい大学院教育について提案させていただく。時間の関係上自己紹介は省略するが、農業・資源経済学専攻で開発経済学を専門に研究してきた。
5年間在学してきた中で感じてきた農学生命科学研究科の強みとしては以下が挙げられる。
  • 「手法」ではなく農学という「対象」で集まってできた研究科である
  • 専攻、研究室、教員陣が多岐に渡っている
  • 農学部図書館が充実している
  • オンラインジャーナルがすばらしい
それに対する弱みとしては以下が挙げられる。
  • 留学生の受け入れ体制が不十分である
  • 研究成果の情報公開・社会還元が十分であるか
以上を踏まえて、アグリコクーンに期待することは以下のとおり。
  • 情報公開
  • 専門知の翻訳(わかりやすく表現する)
  • ヨコ割り
  • 現場とのつながり
大学院生の社会見学
以上を現実化していくにあたって、いくつか提案したいと思う。
一つが、「WEBマガジン」の発行である。学生のレポートをこれに公開してもよいのではないだろうか。二つめが、「大学院生の社会見学」である。アグリコクーン全体として、隔週の日帰りでの社会見学を行ってもよいのでは。三つめが、研究科が連携して「開発援助プロジェクト」を行うということである。研究成果によりプロジェクトの効果・効率性を高め、また現場での情報を研究に還元することをめざす。これは先ほどの黒倉先生のお話と同じである。四つめが、「大学院教育のひとことカード」である。これは『生協の白石さん』に倣ったものだが、『大学院の中嶋先生』のようなかたちで、学生と教官とのインタラクションを深めていけたらよいのではないかと考える。
次に、森 暁さん(応用生命化学専攻)に、「農学生命科学研究科における研究交流の現状とアグリコクーンに対する期待」と題して、ご自身の経験を踏まえて、研究交流や授業の現状と課題(とくに研究室同士のヨコのつながりのなさ)を述べていただき、アグリコクーンへの期待と提案を個別具体的にお話しいただきました。 発表者内容→
要旨
農学生命科学研究科における研究交流の現状と
AGRI-COCOONへ対する期待
森 暁 (応用生命化学専攻・D3)/発表資料(PDF)/2006年1月27日
圧倒的にヨコのつながりが不足
自分自身の5年間の大学院生としての経験を踏まえて、農学生命科学研究科の研究交流の現状と、アグリコクーンへ期待することを述べたい。
まず、私が属する、応用生命化学専攻の、食糧科学研究室での研究についてだが、簡単に言うと、機能性食品の素材となりうる生理機能性成分を探索すると共に、それらと生体との相互作用を細胞レベル・分子レベルで明らかにしていこうということである。
さて、ある新しい実験手法を試そうとするとき、まずは、すでに経験のある院生・スタッフに聞く。これは一番簡単な方法で、かつ信頼できる結果を得られるが、オリジナリティが欠落する危険がある。また、周りにそうした経験のある人がいないのであれば、学術論文を参考にして自分でプロトコルを組み立てることになる。この場合、とりあえず実験は遂行できるが、ベストの成果が出たかどうかはわからない。
ところで、各研究室によって、得意・不得意、慣れ・不慣れがあるようである。友人と話していて、同じ実験手法でも、研究室間で細かいプロセスに違いがあること、そして研究室独自のプロトコルがあることに気づいたのである。そこで、研究室が独自でもっているプロトコルをすり合わせていけば、より良い、より精度の高い研究ができるのではないかと思う。しかし、それをするためには、現状では圧倒的にヨコのつながりが不足している。近い研究をしている研究室同士の情報交換はあるが、専攻を超えた研究室間の交流はない。
とくに農学生命科学研究科では幅広い研究が行われているので、自分の研究におけるヒントを得られる可能性は低くないはずである。またアグリコクーンのTA3名もそれぞれ異なるバックグラウンドをもっているが、その3名で話していてもお互いよい刺激を得られている。そういう意味でも、専攻を超えたヨコのつながりは重要である。
第一歩を踏み出せるような講義を
次に大学院の授業の感想を述べたい。応用生命化学専攻では、ある一つのテーマに沿って専門の先生が講義をオムニバス形式で担当した。ときには学外の研究機関や企業から講師が招かれることもあった。そういう意味では学際的であり、産学官民の連携もあったといえる。しかし、おもしろくない授業が多い。それは、専門用語が多い、前置きが短い、かつ、この研究のどこがどうおもしろいのかがわからない、といった要因が考えられる。
以上を踏まえてアグリコクーンに期待することは、一つは各研究室の研究内容・成果のデータベース化である。二つめは講義の面である。それほど専門的に深くなくても、興味をもてる第一歩を踏み出せるような講義を、アグリコクーンで行ってほしいと考える。三つめが、気軽に情報交換できる場の提供である。人的交流を第一の目的とした懇親会の開催なども、企画していただけるとよいと思う。
  最後に、修士課程1年生の関野 伸史さん(応用動物科学専攻)に、アグリコクーンがめざす大学院教育に対する期待を、ご自身がとったアンケートをもとに、批判的に述べていただきました。学生ならではの視点がダイレクトに述べられ、アグリコクーンに学生がかかわることの重要性をあらためて認識させられました。 発表者内容→
要旨
新しい大学院教育への期待 大学院生からの提言
関野 伸史 (応用動物科学専攻・M1)/発表資料(PDF)/2006年1月27日
言葉だけが先行 「産学連携」 「学際的」
研究室では、皮膚の細胞の増殖や、βを司るシグナル伝達機能の解読をテーマに研究している。今回は、大学院教育への期待として、授業の点からいくつか提案したい。
「産学連携」「学際的」をスローガンに掲げているアグリコクーンだが、これらキーワードを聞いて、どのようなイメージを学生たちが抱くのか、応用動物科学専攻の学生にアンケートをとってみた。すると大抵の学生はよくわからないと返答する。つまりこれら二つの言葉に対して具体的なイメージをもてていない。それは、言葉だけが先行してしまい、実感が理解できないからではないかと考える。そこでアグリコクーンには、「産学連携」「学際的アプローチ」がどういうものなのかを理解させてくれる授業をお願いしたいと思う。
続いて、「産学連携」と銘打った授業で期待することを学生に聞いたところ、多くの答えが「企業の実態を垣間見たい」「企業の人にしかわからないことを教えてほしい」といったことであった。しかしこれでは企業を知ることはできても「連携」には至らない。
授業のコンセプトをはっきり
そこで私としては、大学院と企業それぞれの強み・弱み、双方が望むこと、そういったポイントを踏まえて、大学が企業に提供できること、たとえば論文や研究成果などがどのように企業に評価されているのか、そういったことを、アグリコクーンがめざす産学連携のなかで知りたい。そうした企業評価を知ることによって、大学院の社会へのアピールもしやすくなるだろう。
次に、学際的授業への期待だが、これもアンケートをとったところ、その授業のコンセプトがはっきり示されている(わかりやすい)、そして各分野のスペシャリストを呼んでディスカッションをしてもらう、という二つの期待が寄せられた。とくに後者は推したい。たとえば牛肉問題であれば吉野家の安部社長、伊藤元重東大教授、小泉首相、ジョハンズ米農務長官らによるディスカッションが行われるような授業であれば、皆出席するだろう。これは、各分野のスペシャリストたちが学際的にどう論議するのか見てみたい、という学生たちの希望によるものである。
続いて「第3部:総合討論」では、これからの農学生命科学研究科のありかたや、アグリコクーンのプロジェクトについて、農学部運営諮問会議委員の方々からも意見を頂戴し、論議しました。
閉会後、農学部3号館1階学生サービスセンター隣に新しくオープンした「産学官民連携室」のお披露目が行われ、會田研究科長に新しい看板を掲げていただきました。
そして懇親会。みなさんお疲れさまでした&ありがとうございました!