アグリコクーン 国際農業と文化FG
国際農業と文化ゼミナールⅡ(森林)
「インドネシアの森林保全戦略」
日時:2007年7月18日(水)10:00-12:00
場所:農学部7号館B棟231/232教室
講師:テトラ・ヤヌアリアディ博士(インドネシア大使館林業専門員)
討論者:アグン・サルジョノ博士(東京大学客員教授/ムラワルマン大学教授)
司会:井上真(国際森林環境学研究室教授)
参加者:20名
講師のテトラ氏は、インドネシアの現状を生々しく伝える写真や映像を交えながら、違法伐採をはじめとしたインドネシアの森林問題とそれに対する政策的取り組みの現状をわかりやすく説明した。その後、討論者のアグン氏からは森林問題の「根本的問題」への注目の必要性が指摘された。他の参加者からも、根本的問題、インドネシアにおける社会林業や慣習的森林管理についてなど質問が出され、活発な議論が交わされた。
<テトラ氏講義要点>
1. 背景・問題点
- インドネシア:文化、生物、両面において多様性をもつ国。一方で、1000万人以上が森林周辺地域において貧困の中で暮らしている。→それ以外収入の方法が無い人々が違法伐採に手を貸している現状
- 林業:黄金時代は80年代で終焉。森林面積減少、木材輸出額の低下、コンセッション企業の半減など。
- 現状からの将来予測:違法伐採、森林劣化の継続。林業部門の生産、雇用の低下。環境問題の増加。→政策の介入の必要性
2. 政策枠組み
- 持続的森林管理:全ての取り組みの最終的な目標。国際的な森林政策の歩みと協調するかたちで国内の制度も整備。日本政府とは特にAFP(アジア森林パートナーシップ)においてインドネシアと強い協力関係を構築。違法伐採の取り締まりで技術協力等。
- 重点5戦略:持続的森林管理の達成のため、重点的に取り組む5つの政策。すなわち、違法伐採の根絶、林業部門の活性化、森林再生と保護、住民の経済的向上、森林地域の確定、である。それぞれの政策には取り組むべき具体的活動が含まれる。
3. 今後の課題
- 気候変動:気候変動は全地球的に重大な問題。インドネシアの森林問題も日本の漁業へ影響を与えるなど、その範囲は広範で複雑。
- 国際的な協力の必要性:気候変動のような大きな問題に立ち向かうには国際的な枠組みの構築と同時に、国際協力のあり方も見直して行く必要がある。
<アグン氏コメント>
- 森林劣化の問題は60年代くらいの経済成長期から指摘。
- さまざまな問題の根本にある問題をきちんととらえ、解決するような政策が必要。
- コラボラティブ・マネジメントにおけるローカル・コミュニティを巻き込むことの重要性。
- 様々なステークホルダーの関与等、今後制度を整えて行く必要がある。
<フロアとの質疑>
- 「根本的問題」とは?:複雑だが、貧困や収入の欲求などが絡み合っている。
- 政府は他の収入源を提供していないのか?:伐採跡地に植林し、収入源とする活動も始まっている。
- 慣習的・伝統的森林管理のうまくいっている例は?:地域によっては慣習的管理残る。スラウェシのトラジャ族の管理方法などは良い事例。
- 違法伐採、ペナルティは?:逮捕者が多数出ている。しかしターゲットは地域住民ではなく、取引等を牛耳っているような大物。
- なぜ林業省は未だにソーシャルフォレストリーという用語を使うのか?:様々な主体によって行われる活動をひとくくりにする用語として使用している。
報告作成:棚橋雄平(国際森林環境学研究室博士課程2年)